安川富士のネタ帳

ホラーなネタ帳です。ホラーコンテンツ(映画、漫画、小説など)のレビューや日々のメモなど。

「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」映画レビュー

概要

2019年公開のアメリカ映画。1986年に発表されたスティーヴン・キングのホラー小説『IT/イット』が原作。本作は2017年に公開された「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」のチャプター2であり、登場人物が大人になってからのストーリーだ。監督は、アンディ・ムスキエティが続投している。

本作では、小説前半の主人公たちの子供時代を映画化しており、テレビシリーズ版をエッセンスを継承しつつ、現代に合わせたよりエッジの効いたホラー作品に仕上がっている。

あらすじ

ルーザーズ・クラブがペニーワイズを撃退してから27年後、ついに“それ ”が帰ってきた。すでに大人となり、それぞれの道を歩んでいたルーザーズの面々だが、メイン州デリーで再び行方不明事件が発生すると、マイクは他のメンバーを故郷に呼び戻す。過去のトラウマを引きずりながらも、一人一人が心の奥底に抱いている恐怖を克服しなければならない。かつてないほど凶暴化した“それ ”、ペニーワイズを完全に葬り去るために。

引用:

感想

正直なところ、本作はテレビシリーズとは別物になっていると感じる。ストーリーが大きく異なっているからだ。前作の映画版は、テレビシリーズからあまりはみ出さずにリメイクされていた(もちろん強力にダークになっていた)が、本作ではそもそものペニーワイズの倒し方が大きく変わってしまった。オリジナルストーリーになることは悪いことではなく、今回のその変更によってスケールは大きくなったし、前作をみた視聴者の知りたかったことは知れたし、ある程度納得のいく結末に収束していったように思える。そういった努力は伝わってくる。

ただ、「怖く」なっているかというとそれはちょっと違う。まず、先ほどペニーワイズを倒す方法が変わったと述べたが、その方法とは、魔法のアイテムと少年たちの小汚い思い出の品を使って、いい歳の大人たちがパニクりながら儀式をするのである。なかなかにファンタジーを感じないだろうか。そしてこの方法はもれなく失敗し、最終的にはいい歳の大人たちがひとり(一匹?)のピエロに対して精神攻撃でゲキ詰めしてノックアウトする。こうしたファンタジーと、人間の大人のリアリティが奇妙に混じり合って、むしろ笑えてくるのが本作の特徴であり良い点とも言える。ファンタジーというと、本作ではペニーワイズのモンスターっぷりに磨きがかかっている。そりゃたしかに、27年経ってるんだもの。27年も経てば巨大化もできますわ。

そうしたホラーが半減してしまった部分とは反対に、ルーザーズに襲いかかるモンスターのビジュアルや奇妙な空間演出はパワーアップしているし、27年後のルーザーズたちの過去のトラウマとの戦いの様子などは、前作とホラー映画好きなら一見の価値はあるだろう。

やはり前作のインパクトがあったためだけに、続編としての落とし込みで違和感を感じてしまう。もし観るとしたらヒューマンドラマとコメディ要素ありきなので、複数人で見ながらわいわいしたり、高解像度で見てグラフィックを楽しんだりするのがいいかもしれない。

「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」映画レビュー

概要

2017年公開のアメリカ映画。1986年に発表されたスティーヴン・キングのホラー小説『IT/イット』が原作。1990年にアメリカでテレビシリーズとして初の映像化がされており、日本では1991年に公開。本作が初の劇場版となっている。監督は、2013年公開の『MAMA』で監督をしたアンディ・ムスキエティ

本作では、小説前半の主人公たちの子供時代を映画化しており、テレビシリーズ版をエッセンスを継承しつつ、現代に合わせたよりエッジの効いたホラー作品に仕上がっている。

あらすじ

“それ”は、ある日突然現れる。一見、平和で静かな田舎町を突如、恐怖が覆い尽くす。相次ぐ児童失踪事件。内気な少年ビルの弟も、ある大雨の日に外出し、通りにおびただしい血痕を残して消息を絶った。悲しみに暮れ、自分を責めるビルの前に、突如“それ”は現れる。“それ”を目撃して以来、恐怖にとり憑かれるビル。しかし、得体の知れない恐怖を抱えることになったのは、彼だけではなかった。何かに恐怖を感じる度に“それ”は、どこへでも姿を現す。ビルとその秘密を共有することになった仲間たちは“それ”に立ち向かうことを決意するのだが…。

引用元

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(吹替版)

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(吹替版)

  • 発売日: 2018/01/12
  • メディア: Prime Video

感想

テレビシリーズ版と比べて、ストーリーと視覚の両面からダークさとグロテスクさが引き上げられている。ストーリーに関しては、はみ出しものの子供たちが抱えているトラウマが2時間のなかでたっぷりと描画されており、ペニーワイズというモンスターの存在だけでなく、人間の内面への恐ろしさも感じる。少年・少女にしても、その親たちにしても、登場人物たちの過保護・性的虐待・暴力性などの闇がより過激で鮮明になっている。

こうした人間の闇や弱みというのは、度々ホラーの題材とされる。例えば、鈴木光司さんの小説「リング」では、貞子の呪い恐ろしさが際立つが、その事件の発端には理解し難い他者への恐れがあり、その恐れの結果が呪いとなって、人間に降りかかってくることで、人間の不完全さを認識するのだと思う。ホラーとは切っても切り離せないものだ。ITは、それを前面に押し出しており、それぞれのトラウマを具現化したものたちと対峙するのだ。

ペニーワイズに立ち向かうことで、ルーザーズのトラウマを克服していくというストーリーではあるが、兎にも角にもペニーワイズの恐ろしさは際立っている。本作のペニーワイズは、子供っぽさと狂気さが増しており、もちろん狂気のそれは間違いなく怖いのだが、子供っぽさがあるからこそ狂気さを増しているのだろうと思う。ジョージーと会話しているときに一瞬見せる真顔のシーンが象徴的だ。演じているビル・スカルスガルドの全身全霊の演技をベースに、「そこまでやるのか!」と言いたくなるほどに散りばめられたおぞましい視覚効果・演出が加わり、ペニーワイズによる新しい恐怖のサーカスが完成した。

一方、ラストのペニーワイズと対峙するシーンに関しては、やはりなんともあっさりで、あれだけ残忍で狂気なピエロが子供たちに「お前は怖くない!」と物理的にリンチされて逃げ帰ってしまうのだ。ペニーワイズを怖くしすぎた故に、そのギャップが目に付く。まあ、喘息の薬(嘘)で顔面が溶けてパチンコ攻撃1発で退散した前作よりは耐久力は上がっているし、子供たちを全員再起不能にしようものなら次回作につながらないので、良くはなっているのかもしれない。

原作やテレビシリーズ版を知らなくても(もちろん見ていた方が100倍楽しめるが)、最近公開されているホラー作品と比較しても、しっかりと怖さを楽しめるクオリティだ。特にペニーワイズの演技と、ギレルモ・デルトロ作品のような質感の高いVFXによる不気味さをぜひ体感してほしい。